刑法各論のトピック

刑法

設問1 甲、乙の刑事責任について論じる。

1.問題の所在

 本事案では、いわゆるパチスロの不正行為によるメダル取得につき、窃盗罪が適用されるかが検討の中心となる。類似する事件として近時最高裁判例が出ており、これも参考にしつつ検討する。窃盗罪は不法領得の意思で、他人の財物を窃取することにより成立する。すなわち、窃盗罪の構成要件としては大きく二つあり、第一は不法領得の意思という所有権侵害の要素、第二は財物の窃取(奪取)という占有侵害の要素である。

(1)不法領得の意思

 窃盗罪をはじめとする領得罪については主観的要件として、通説判例は構成要件的故意の他に、不法領得の意思という特殊の主観的要素が要求されると解してきた。不法領得の意思の内容については、大正4年の大審院判決が示した定義が議論の出発点になっている。すなわち、不法領得の意思とは、「権利者を排除し、他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従いこれを利用もしくは処分する意思」と定義している。この伝統的定義においては、①権利者排除意思:利用者を排除して自己の所有物として利用、処分する意思、②経済的用法に従って利用処分する意思、とが問題にされている。前者の権利者排除意思は、使用窃盗を不可罰とすることで可罰性限定機能を持ち、後者の経済的用法に従う点は、窃盗罪と毀棄隠匿罪とを区別するものとして犯罪個別化機能を有するものと解されてきた。

 最高裁判例も不法領得の意思を必要とするとの前提に立っているが、今日では、前述の伝統的定義を希薄化することによって事案の解決を図っている。経済的用法に従うという点については、必ずしも経済的効用を図ることを意味するのではなく、その物の本来の用法に従った利用であればよいとした判例や、さらには、その物の本来の用法に従うとはいえないような事案について不法領得の意思を肯定した判例が出されている。経済的用法に従うという点はもはや不法領得の意思の判断基準からは脱落している。

 さらに、権利者排除意思の点についても、かなり緩やかに認める方向となり、一時使用の事案について不法領得の意思を肯定するなど、判断基準としての機能を果たさなくなってきているともいえる。したがって、判例のいう不法領得の意思の内容としては、現在では「他人の物を自己の所有物として利用・処分する意思」という部分が機能しているだけとも解釈が可能である。不法領得の意思の要否は学説においても対立があり、必要説のかなでも、権利者排除意思、利用処分意思のどちらも必要とする説、どちらか一方を必要とする説があるが、ここでは判例通説に沿うこととする。

 本問事案について考察すると、もともとパチスロメダルは店外持ち出し禁止であり、遊戯者は自己の所有物とすることは考えていない。つまり、メダルを景品交換までの間、一時的に占有することをもって、権利者排除意思と捉えることが可能である。また、遊戯者にとってメダルは景品交換という経済的価値を得るために物であり、経済的用法に従って利用処分する意思があるものと解する。したがって、判例解釈に沿い、遊戯者甲は不法領得に意思があった、と解する。

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